ニュースの概要
厚生労働省の要請で行われた調査によると、リスキリング(学び直し)に関して、会社として必要なスキルを社員に示している企業は63.7%でした。さらに、スキルを示している企業と示していない企業を比べると、社員が実際にスキルを身につけた割合に17.4ポイントの差がありました。研修の用意や予算の確保だけでなく、「何を学べばよいか」を言葉にして伝えているかどうかが、学びの成果に直結することを示す結果です。国が進める人への投資の流れの中で、現場の運用がどこまで進んでいるかを映す数字だと言えます。
引用元: 【リスキリング】必要スキルを明示する企業は63.7%。明示の有無でスキル取得に17.4ポイント差―厚労省要請調査(HRプロ)
分析・見解
17.4ポイント差が示す、学びの出発点の違い
この数字が教えてくれるのは、社員の意欲よりも「地図があるかどうか」が大きいという点です。多くの人は学び直しの必要性自体は感じています。しかし、何を学べば自分の仕事や評価に結びつくのかが見えないと、時間を割く判断ができません。会社がスキルを示すと、学ぶ理由が「自分の不安」から「会社の方針」に変わります。この切り替えが、行動を後押しします。
なお、この差は因果をそのまま証明するものではありません。もともと人材育成に熱心な会社ほどスキルも示す、という面は当然あります。それでも、示すこと自体にかかる費用はほぼゼロです。費用対効果の面では、最初に手をつける価値があります。
63.7%の内側にある、示し方の質のばらつき
「示している」企業が6割強でも、中身はさまざまです。「DXに強くなってほしい」といった方向性だけの会社もあれば、職種ごとに必要なスキルを一覧にし、習得の目安まで書いた会社もあります。前者は掛け声に近く、社員は結局どう動けばよいか分かりません。
たとえば製造現場なら「設備データの読み方」「簡単な統計の理解」、営業なら「顧客データを使った提案の組み立て」のように、仕事の場面に引き寄せて書くことが肝心です。スキル名ではなく、その人が明日できるようになる行動で書くと伝わります。統計上は同じ「明示あり」でも、質の差が成果の差に含まれている可能性があります。
残り36%が動けない理由は、技術より経営側の迷いにある
示していない企業の多くは、そもそも自社に必要なスキルが整理できていません。事業の先行きが読みにくく、AIや自動化が仕事をどう変えるか見通せないからです。ここで完璧な答えを待つと、いつまでも動けません。
現実的なのは、半年先までの見通しで暫定版を作ることです。外れたら直せばよいと割り切ります。スキルの定義は固定の憲法ではなく、四半期ごとに見直す作業手順書のようなものと考えると、着手しやすくなります。経営の迷いをそのまま社員に開示し、「いま分かっている範囲はここまで」と伝える誠実さも、信頼を生みます。
国の後押しと、人的資本の開示がもたらす変化
国は学び直しへの公的支援を拡充し、上場企業には人的資本の情報開示を求めています。今後は「研修を何時間実施したか」より「どのスキルをどの水準まで育てたか」が問われるようになるでしょう。スキルを明示している企業は、この流れに自然に乗れます。逆に、示していない企業は、採用でも見劣りしやすくなります。求職者は入社後に何が身につくかを、以前よりずっと具体的に比べているからです。
ビジネスへの影響
最初の一歩は、職種ごとの一枚シートを作ること
大がかりな制度は不要です。まず主要な職種を三つ程度選び、それぞれに「半年で身につけてほしい行動」を五つずつ書き出してください。現場のリーダーと三十分話せば、下書きは作れます。ポイントは、スキル名ではなく「何ができる状態か」を書くことです。たとえば「データ活用」ではなく「週次の売上表から、先月との違いを三行で説明できる」といった形です。完成したら全社員に配り、上司との面談で話題にします。
学ぶ時間と評価をつなげて、はじめて習得が進む
スキルを示しても、学ぶ時間がなければ進みません。週に一時間でも業務時間内に学習枠を確保し、その結果を人事評価や昇給の話し合いで扱うと、取り組みの本気度が伝わります。社内で使える講座は、公的な助成制度を使えば費用を抑えられます。外部講座を選ぶ際は、先ほどの一枚シートと見比べ、内容が対応しているものだけを採用すると無駄が減ります。
成果は受講者数でなく、仕事の変化で確かめる
効果測定で陥りやすいのは、受講者数や修了率だけを見ることです。三か月後に、示したスキルが実際の仕事でどれだけ使われたかを、上司と本人の双方に聞いてください。使われていないなら、スキルの定義か講座の選び方に原因があります。この見直しを続けることで、17.4ポイントの差を自社の中でも再現できます。